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ノートに名前を書き込んでから宮野先輩の手を引いてパソコン室を後にすると廊下に出た所で再び同じ話題が繰り返される。
「それで?霊感欲しい理由は?」
「………そんな聞きたいの?」
これほどこの話題を問い詰められるとは思ってなかったが為に呆気に取られてしまう。
「えぇ、勿論。興味あるわ、凄く」
「……つまんない話ッスよ」
それだけ言って黙りこくると繋いでいた手に僅かに力が込められて俺はその手に視線を落とした。
「………あ。空君の家族って何人…?」
まさかこの質問がくるとは思っていなかった──それこそ微塵も。
だから驚きの余り反射的に彼女の手を強く握り返してしまった。
「………鋭いね、先輩。親父と兄二人と姉一人」
「あぁ、ゴメンね。無神経だったかしら。ただ…想像通りだったら空君の口から言わせたくないと思っただけ」
「…何で謝んの?平気ッスよ、別に」
こういう時謝られるとどうしたらいいか解らなくなる。
「……うちの母親、俺産んで死んだ」
「!」
「だから顔も知らないし声も聞いた事無い───ただ記憶にあるのは何でうちにはおかんが居ないのって泣きじゃくる姉ちゃんの姿だけ」
俺と陽菜は一つしか違わない。
だから母親とは会ったようで会ってない訳で、幼稚園から小学生の間はそんな姿を良く見ていた。
「………ゴメン。無理に聞き出す事じゃなかったわ」
「別に……俺が勝手に話しただけ。ごめん、人に話すような内容じゃないね」
そう言うと彼女は首を左右に振って俺の手を両手で握りしめた。
「そんな事ない。誰かに話さなきゃ何時まで経っても変わらないじゃない」
「だって……」
「だって空君、ずっと思い悩んで来たんでしょ?自分なんか生まれてこなきゃ良かったのにって」
「何で────…」
何で解るんだ?
「解るよ、空君が考えてる事なら。……何となくだけど」
「……ガキながらにいつも思ってたよ。俺が此処に居なきゃコイツが泣く事なんて無かったんだろうなって」
そう、母親が恋しくて泣きじゃくる陽菜は何だか凄く痛々しかった。
存在する事が当たり前のような母親の存在がうちには無い。
そんな当たり前の事を欲する陽菜の事が見てられなかったんだ。
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