風鈴市

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その言葉で漸く彼女が何に対して喚いていたのか合点がついた。 「あぁ…別に平気ッスよ。連絡いれたし」 今更捜し出して合流しようとは思わない。 それだったらこのまま帰るっつの。 「本当に…?」 「本当ッスよ。あと帰るだけだし」 彼女は安堵した表情を浮かべた後若干言いにくそうに俺を見上げゆっくりと話し出す。 「お願いなんだけど…弟達凄く懐いてるみたいだからもう少し一緒に居て欲しいなぁって…ダメかしら?」 「………しょーがないッスね。いいッスよ、別に」 仕方なさ気に言いながら弟二人を担いだまま先へ進むと吹き出すような音が耳に届いた。 笑いやがった。 「笑いました?」 「いえ、別に」 「おにぃちゃん、おにぃちゃん!」 「!」 愛斗の声に目線だけで見上げるとやっぱりキラキラした瞳で俺を見る。 「あれ!あれ食べたい!」 指差された先には一軒の出店。 「ベビー…カステラ?」 「優斗も食べたい!」 頭上からも肩からも攻撃され最早言われるがままにベビーカステラの出店へと赴く。 「ちょ、愛斗!優斗!そんな事頼んじゃダメでしょ!」 「いいッスよ、別に。おばちゃん3袋ちょーだい」 「あら!兄ちゃん良い男じゃない、サービスしてあげるわ」 そう言って袋パンパンにカステラを詰めてくれるおばちゃん。 個数も値段もあったもんじゃねぇな。 「ハイ、900円ね」 「どーも。愛斗、優斗。ちゃんと持って」 代金と交換に袋を受け取る。 その袋を一つずつ愛斗と優斗に渡すと二人は嬉しそうに笑って食べ始めた。 「何不貞腐れてんの、先輩」 「だって……」 「ホラ、機嫌直して次行きましょ」 もう一つの袋を先輩に差し出すと驚いた顔で俺を見た後受け取れないとばかりに首を左右に振った。 「も、貰えないわよ!これじゃ空君の分が…」 「俺好きじゃねぇもん。先輩、食べたかったんでしょ?弟君達と同じ顔してたもんね」 悪戯めいたように笑って言うと図星だったのか僅かに頬を赤らめ、渋々と袋を受け取った。 「…………ありがとう」 「どういたしましてー」 拗ねたような顔して食べ始める彼女だけど直ぐ美味しさから表情を綻ばせる。 姉弟だなーと改めて実感させられ、小さく喉の奥で笑った。 「空君ってきっと何もしなくても生きていけるわよね」 「意味わからん」
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