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空はどんよりとしたというに相応しい、黒に近い灰色をした厚い雲に覆われ、勢いを削がれた鈍い日の光が雲間から漏れている。
吹き付ける冷たい北風に思わず身を強ばらせる。
今にも雪が降りそうな空模様だ。
夕方から雪が降りだすという今朝の天気予報が、この様子だとずばり的中しそうだ。
「ホワイトクリスマスになるでしょう」と明るく伝えるキャスターのわざとらしい笑顔が脳裏に浮かんだ。
クリスマスというと、仲の良さそうな若いカップル達が手を繋いで街を我が物顔で闊歩するものだ。
カップルでなくても、家族や友人たちで集まって楽しい日を過ごす。
キリストの聖誕祭という、神聖な記念日ということなど無宗教国家である日本においては一切関係ないようだ。
この国の若いカップルたちにとってクリスマスというのは、誰にも文句を言われることなく愛を育むことが出来る、最高の日だ。
それにしても人前でキスをしたり、人目をはばからずに愛を確かめ合うことを、誰が許したのだろう。
かく言う私も、今日は彼氏の祐司とデートの約束をして家を出た。
しかし、笑顔で街を練り歩いている幸せなカップル達と私達は、決して同じではない。
断じてそうであると言い切ることが出来る。
街に出ると案の定、幸せそうなカップル達で溢れかえっていた。
すれ違う人の七、八割が男女の二人組だ。
やけにきらびやかに彩られた街並み。
立ち並ぶ店はクリスマスカラー一色で、至るところでごてごてと派手に飾り付けされたクリスマスツリーを目にする。
葉を全て落として寒々と佇んでいるだけの街路樹も、ピカピカと点滅を繰り返す美しいイルミネーションを纏い、心なしか暖かそうに見える。
私は駅の構内にあるベンチに座り、祐司が来るのを待った。
ひんやりとしたベンチが、身体を芯から冷やしていくように思う。
私の心さえも。
こうして祐司が来るのを待ってはいるが、必ず祐司がここに来るという確信はない。
祐司には、私が一方的にここで待っているということを告げただけだったから。
私が送ったメールに、祐司からの返事はなかった。
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