25人が本棚に入れています
本棚に追加
春の日差しは暖かく。
川辺りの桜並木は満開だ。雪のように落ちていく花びらは綺麗で歩いている者に感嘆の声をもらした。
春の日差しの影響か町中の人達はいつもより笑顔で接客をし、また客もいつもより楽しげに買い物をしている。
がらの悪い者もいない。平和な町中にぽつんと物騒な名前のお店があった。
その店は『藤 刀屋』。少し名のある刀屋で町中では有名であった。
一人の少年が竹刀を抱えながら店の中に入ると皆優しく笑って頭を下げた。
「坊っちゃん、おはようございます。旦那様なら奥で市場で見つけた刀を見せていますよ」
礼儀正しい初老の男が少年に教えるように奥を指差した。
中では刀を飾っている者や市場から入ってきた刀を品定めしている者。お金を数えている者がいる。
開店前なのだ。
少年は漆黒の髪を揺らしながら漆黒の瞳でくるくる見渡した。少年は楽しそうに刀を見て嬉しそうだ。
「千雪(ちゆき)!また…お前は勝手に店に来て」
最初のコメントを投稿しよう!