遠くもなく、近くもなく

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四郎の部屋には小さな窓が一つある。 天井に近い位置に一つだけ。 朝も昼も夜も、日はほとんど入ってこなかった。 けど、その天窓が気に入ってるんだと四郎は言う。 「布団のとこから見上げるとさ、ちょうど月が見えんの」 そう言って、笑った。 タバコをくわえたまま、右の口の端だけをあげて器用に笑った。 けど、四郎が夜にこの部屋にいることはめったになかった。 たいていは出かけていて、俺は眠れなくなると四郎の部屋に来て月を眺めていた。 だからあの日も、そうするつもりで部屋に来たのだ。
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