遠くもなく、近くもなく

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「何?」 つっけんどんな声が聞こえてきて、過去の思考から引き戻される。 女の子がこちらを見ていた。 シーツを引き寄せて肌を隠している。 「…何も」 べつにこの女に興味があってここにいたわけじゃないのでそう答えた。女の眉間に皺がよる。 「誰」 敵意が声からも表情からも伝わってくる。野良猫みたいな女だなと思った。 「同居人、かな」 それとも居候?四郎との関係は自分でもよくわからない。 「…健吾は一人暮らしだって言ってた」 「健吾?そう言ったんだ」 ぴくりと女が反応を示す。 「あいつは本名なんて教えないよ」 真治・拓郎・大輝・翔太…いつも適当に名乗って遊ぶ。俺が本名を知ってるのだって四郎が学校の書類で保護者として書類に明記していたからだ。まあ、戸籍を見たわけじゃないからこれが本名じゃない可能性も否定しきれないのだけれども。
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