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「そうだ、自己紹介がまだだったわね」
コートを羽織っているとはいえ、猛吹雪の全てを遮られるわけではない。時間とともに勢いを増す雪の嵐が容赦無く少女の体温を奪い続ける。
朦朧とした意識の中、少女はそんな優しい声を聞いた。
「私はシルヴィア、シルヴィア=ローランサンよ。あなたは?」
それから女は背中にしがみついている小さな女の子へ訊いた。
「ミィア……ミ、イ……」
泣き疲れたのだろうか。それとも体力が底をついたのか。
自分の名前もまともに言うことなく少女は眠りについてしまった。
それでも相も変わらず、寒さによる震えと同じ言葉の寝言は続いている。
彼女に、一体どれだけの恐怖が訪れたのだろう。
今も広がる戦禍の中で大切な親兄弟を奪われたのか、それとも友や恋人を失ったのか。
女はそれ以上の事は何も言わず、一人少女の悲しみを想像する。
かつて自分がそうであったように、かつて自分の大切な者を奪われた時を思い出して、彼女は静かに涙を流した。
そして、落ちきる前に氷の雫となり雪の中に埋もれた涙。
真っ白な大地──どこまでも広がる母なる大地は、何人の悲しみも全て受け入れては新たな命を多々芽吹かせる。
そうした輪廻を女は信じていた。
だからこそ。
各国が次々と参戦を表明し、今も広がりつつある二大陸間の戦争。その終戦を心から望み、後には必ず平和が訪れると、僻地の山奥に追いやられてもなお信じ続けることができた。
「大丈夫、私があなたを救ってあげる」
女はわずかに笑いながら呟いた。
未来をその背に背負い、己の覚悟を言葉に込めて。
プロローグ~END~
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