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目覚め
「……きろ」
「………」
「…起きろ」
「………う……」
春樹は鉛の様に重い身体をゆっくり起こし、2、3度頭を振った。
「…誰か…呼んだか…?」
春樹は靄に包まれた様な意識を必死に手繰り寄せると、自分の最後の記憶をようやく思い出した。
「…俺は…死んだのか…?」
「……死んだんじゃなかったのか???」
春樹がそう思うと同時に、肩に雫が落ちた。
「…冷てぇ…」
そう感じるって事は死んじゃいないんだな、と春樹はふと思った。
しかし、電車に飛び込んだ…いや寧ろ投げ出されたと言ってもいい様な状況にも関わらず、春樹の身体には傷1つ無かった。
「……ここは…何処だ…?」
「日本じゃ…ないのか?」
そう思うのも無理はない。
春樹の目の前に拡がる光景は明らかに自分の知っている日本の光景では無かった。
そう、昔読んだ事のある漫画の様な世界観…
春樹の横たわっていた場所は大きな蓮の花の様で、ふわりと花の香がした。
周りの壁は水晶の様で、壁を見つめる自分が映っている。
上を見上げると2、300Mはあるのだろうか。
屋根は無い様に見え、たまに雨露の様な物が落ちてくる。
ひんやりとした空気が辺りに漂い、肌寒いが心地好い空間だった。「……いや、落ち着いてる場合じゃねぇよな…」
春樹は不思議な程に落ち着いている自分に戸惑いを感じながら、ゆっくりと立ち上がった。
その時…
「目覚めたか…」
「…!!…だ、誰だ!?」
春樹は声のする方を振り返ったが誰もいない。
「……何なんだ…何なんだよ一体!!」
春樹が動揺するのも無理はない。
何故ならば…
「てめぇ!俺を突き飛ばした奴だろ!!何処に居やがる!」
そう。
春樹に話かけている声は、明らかに春樹が電車に突き飛ばされた時に聞いた声なのである。
「…仕方なかったのだ。」
「仕方ない?仕方ないだと?てめぇにどんな理由があろうが、はいそうですか、何て言うとでも思うのかよ!」
「第一姿も見せずに何考えてやがる!」
春樹は激昂するが、誰も現れない。
「出てこいよ!」
「……私はもう姿を見せる身体が無いのだ…」
「……はあ???」
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