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消えた男
「ちと飲み過ぎたかな…」
男はよれた歩調で駅の階段を降りていた。
彼の名は春樹(はるき)。どこにでもいる普通の学生である。
「だから帰るって言ったのに…」
大学の新歓コンパで散々飲まされ、挙げ句のはてに終電に間に合わない始末…
この男、根本的に頼まれたり誘われたりする事に対して「嫌」と言えないお人よしである。
「うう…頭痛え………」
春樹はようやく階段を降り、ホームのベンチに腰を降ろした。
「始発まであと少しか…」
始発までの時間をマンガ喫茶で潰し、始発の時間に合わせて電車を待つ。
これが酒を飲んだ時の彼のお約束パターン…
「あぁ~…怠ぃ………」
春樹は渋々立ち上がり、電車を待つ。
その時…
「………けた」
「あん??なんだ??」
春樹の背後…いや、むしろ背中から声が聞こえた気がした。
「見つ……お前……」
「???…なんだってんだ?飲み過ぎたからかな…」
パアアアン…
始発が警笛を鳴らしてホームに入ってきた。
そして…
それとほぼ同時に…
「お前だ!!」
「!?」
今までよりも遥かにはっきりとした声が聞こえたかと思うと、春樹の背中に強い力がかかった。
「え…………?」
春樹の身体は線路に投げ出されたかの様な状態だった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!……………」
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