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◆◆◆
「お邪魔してます。根室哲司さん」
「あんたが安藤さんかい? 探偵さんが何の用だって?」
「大事なコンサート前に、わざわざお時間を取らせて申し訳ないと思ってます。実はある人物がアナタを裁判に訴えようとしてましてね。そのお知らせと、できればそういう面倒は避けてコトを済ませたいと考えて伺いました。早速コレを見て頂きましょう」
俺は一枚のDVDを根室に渡し、再生するように促した。
『TNL(テツシ・ネムロ・ラボラトリー)EXPO.in.幕張』
モニタースクリーンに映し出されたタイトルを見て彼は。
「おいおい、僕の忘れられない悲しみを、同じこの場所で見せるなんて、何の嫌がらせだい?」
落ち着き澄ました声で言った。
「どうしても見てもらいたいんですよ。祢音のために」
「祢音? 君は彼女の……」
「同窓生です。中学のね」
彼の言葉を遮って俺は言った。
「もう3年前になりますね。彼女が亡くなって」
「ああ、早いものだよ」
「このコンサートはまさに世界初の大イベントでしたよ。世界中のニュースに流れた」
「不本意な流れ方だった。世界デビューのコンサートが、愛する者を失った葬儀場になっちまったんだからな」
根室はムッとしたように高い声を放った。
「亡くなった方はもっと不本意だったんでしょうね」
「いちいち突っかかるな? 何が言いたいんだ!」
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