始まりを告げる夢

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深々と。 桜が舞っていた。 驚くほどゆったりと。 音もなく。 見渡す限りに舞い散る桜の花びら。 それは一面を色づけるように、 白で塗り潰された世界を彩るように、 ただゆったりと舞い踊っていた。 それはとても綺麗で、 呆れるくらいにとても綺麗で、 ひとりぼっちで、 ただ震えることしかできなくて、 寂しくて、 どうしようもなく途方にくれていたボクでさえ見惚れてしまうくらい、 綺麗な景色だった。 だから、 だからこれは夢なんだと思った。 真っ白な夢。 夢のような夢。 いつか覚めてしまうことがわかっているのに、 それでも夢見ることを夢見てしまう。 新しい予感に胸を膨らませるような、 陽だまりの中でふと涙をこぼしてしまうような、 冬の最中に春の訪れを待ち望むような。 夢。 差し伸べられた手をぎゅっと掴む。 温かな手。 凍える世界で、 雪の中で、 ぬくもりを確かめるように、 ぎゅっと。 そんな、 始まりを告げる夢のはじまり――。
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