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《Oーside》
「こんばんは」
不思議でした。実に不思議でした。黒い傘に、何処かのフランス人形の服を持ってきたような、はたまたコスプレのような、そんな格好をした少女がいたのですから。
「こんばんは」
しかし、私には一つ分かったことがありました。
この少女は私の病気が生み出した幻想だと。
その病気のせいで、私は緑階段で芥川の影を見てしまった事もありました。
「此処に来れたのね」
「私を?」
私は少女に隠すことをせず、唯本来の『私』を曝しました。
「ええ、貴方は毎日此処へ来て、それで居て私の所へ来れなかったの」
「…」
少女は私より遥かに生きていました。
それは後々分かった事で、このときは唯、何となくそんな気がしたのでした。
「賽銭箱の所まで来なければ私に会えないの。そして、貴方が賽銭箱へ来れるのは今この時だけ」
口を噛み、痛みを感じ、これは幻想ではないと悟りました。
いや、そう信じた方がよかったのです。
痛みを感じた位では真実は見えない。
故に意味などない唯の遊戯です。
「私を呼んだのですか?」
「そうよ」
「何故」
「すぐに分かるわ」
少女は手を私の手をとり歩きだしました。
少女は120cm位でしたので、私は少し不憫でした。
「何処へ?」
「すぐ分かるわ」
少女はそれしか言いません。
少し情報を整理してみましょう。
私が賽銭箱に近づけなかったのは少女のせいで、近づけたのは少女がこの時間に呼んだから。
こんな所でしょうか。
大抵の人間はこの状況でどんなリアクションを起こすのだろう。
私が少女の手を離さないのは、そこに死があったとしても恐れないからでした。
私の寝てる間にそっと誰かが拳銃の引き金を引いたとしても、それは私にとって喜劇でしかないのですから。
しかし、私は自殺というものは悲劇だと考えている人間です。
故に命自体に興味はないのです。
いや…どうも悲観的か。
やはり、命は大切だと考えるのが良いでしょう。
それが世の条理にあっている。
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