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神社の裏は昨日の雨でぬかるんでいました。
「此処ですか」
「そうよ」
何も無い。それが正しい感想でした。
「で?」
「焦らないで、しばらく待ちなさい」
少女の戯言だと思ってはいません。
この世界というのは科学などと言うもの以外にもそれと呼べない何かが存在していることは知っていました。故に…
「ねぇ…」
その何かが中々起きず退屈したのか、少女が私に話しかけてきました。
「神を信じる?」
「神を?」
「そうよ…」
私の脳裏に浮かんだのは自分の姿でした。
私を支配しているのは自分唯一人。
故に自分以外に信仰は無く、自分の言う事はすべて正しい。
それは、自己中という事ではなく、そんな馬鹿なものではなく、自分の起こす行動に許可を出すのは自分だけという意味です。
「私が神だとしたら?」
「ふふ…面白いわね…。それは正解だけど…これから行く世界で、貴方は彼らに同じことを言えるかしら?」
「世界?」
「そうよ。貴方はずっと願っていたじゃない…それを叶えてあげるのよ」
「何故」
「行けば分かるわ」
少女が言葉を切った時でした。
辺りは暗くなり、白波の立つ音が聞こえたのです。
神社に海はありません。
この近くに海はありません。
川もありません。
それなのにこの音。
しかし、音にとらわれている場合ではありませんでした。
ぬかるんだ道の先に大きな扉が見えたのです。
「行きましょう」
私はまた手をひかれるままでした。
道に足跡を残しながらその扉へ。
扉は木造で、その先から白波の音が聞こえるようでした。
「開けるわよ」
「どうぞ」
「違うわよ、貴方と私で一緒に開けるの」
「はぁ…」
少女は手袋のようなものをしていましたが、それを外し、扉に添えてある私の手にその開かれた手を重ねました。
私は急に恥ずかしくなり、赤くなっていました。
「貴方には分かるのね」
「貴女は人間でしょう?そしてその姿は…本当はもっと…」
「見たい?」
「…」
「この扉の先で見せてあげる」
扉は案外軽いものでした。
目の前に広がるのは海でした。
そらは薄暗く、それにしては明るい。
月が空に浮いているのですが、それはまるで嘘で、太陽が照らしているようです。
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