処刑人のブラリ旅は、あの雪の日から

2/6
392人が本棚に入れています
本棚に追加
/337ページ
静かに雪が舞う、美しい雪原。太陽すら白い雲に覆われて、日の光すら届かない。 春の芽吹きも見えず、湖さえも凍りついた冬の冷たさに目立つのは‥赤。白に包まれた場所に一人の男が背を向けて立ってる 年齢は二十代前半くらいか、まだ随分と年若い美青年だった。ゆったりとした黒髪は長めで、東洋人にしては白皙の肌。端正な顔立ちは少々中性的だが、頬や額からは血を流している。 着てる紅いカンフー服にも血が滲んでおり、切れ長な紫色の瞳は手に握られた短刀に向けられていた。 何かと戦っていたのか、全身が傷だらけで‥ポタポタと緋色の鮮血が白い地面を染めていく。 彼の足元に落ちていた、銀色の十字架のペンダントを拾い‥哀しみを込めた眼差しを向ける。 彼の名は朱雀(すざく)。神の痣を持つ、浄化の白き焔を操る男だ。彼はつい先程まで、『夜空の魔王』と呼ばれていた男と死闘を繰り広げていた。 たった一人の肉親である妹を、心から愛してくれた男だった。愛し過ぎた故に壊れた彼を封印するしか‥止める術はなかった―――――。 勝利の喜びなどない、在るのは哀しみと‥救えなかった無力感のみ。
/337ページ

最初のコメントを投稿しよう!