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ゴリラがいた。
ゴリラ:サル目 ヒト科 ゴリラ属に分類される類人猿の総称である。アフリカ大陸の赤道直下の樹林に生息している。
そんなゴリラさんが私の家に何の用があるのだろうか。
朝、重いまぶたを擦りながら二階の自室からキッチンへと下りてきた俺を迎えてくれたのは
珍しく朝食を作る母親でもなく
椅子に腰掛け新聞を読む父親でもなく
ましてや普段この時間は眠りの国で夢の住人達と戯れている妹でもない。
出迎えてくれたのは
買い置きのバナナを一房まるごと、豪快にかぶりついている、ゴリラだった。
「満ち足りた顔しやがって」
思わずそう口に出してしまうほどゴリラの顔は綻んでいた。
そういえばやけに静まり返っていると思ったら
今現在、家の両親は研究所にてスペースシャトルの最終調整に入っているのだった。
なんでも父母は、宇宙について学べる本には必ずその夫婦ありと言われるほど、その手の大御所らしい。
そして今、巷で噂の「人類の宇宙移民」
地球上に無差別に増えすぎた人口をどうにか緩和できないか
その環境問題を改善する策、それがこの宇宙移民。
そして、その先駆けたるスペースシャトルの開発の全責任者が我が両親なわけだ。
この計画が実を結んだ暁には、我が両親は、人類の宇宙開拓史に大きく名を刻み、人類が滅ぶその日まで未来永劫語り継がれることだろう。
「まったく」
言葉も出ないね
もぐもぐとバナナを食べる手を休める気配のないゴリラ――マウンテンゴリラのようだ……確か学名はGorilla gorilla Beringeiだったような……まぁどうでもいいか――に悪態をつく。
ふと、ゴリラが顔を上げると俺と視線が合った。
戸棚にあった、もう一房のバナナを手に取り俺に差し出す。
何様のつもりだろうか。
しかし不覚にも俺はとっさに受け取ってしまった。
それがこれから始まる、長い不幸の幕開けとも気付かずに。
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