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――此処は――
「朱雀(すざく)様…おはようございます」
少年がふと目を開けると、執事の白虎が少年の顔を覗き込み、微笑んでいた。
「白虎、僕は何時から此処に…?」
「さっき…花畑のなかに倒れてたかの様に眠っていたので連れてきましたよ。子供らしくて可愛い寝顔でしたよ。」
執事は照れてうつむく少年の頭を撫でた。
――――この少年・朱雀はバンパイア。しかも数少ない純血のお坊っちゃん。大切にされすぎて外と言っても庭にしか出してもらえず、遊び相手というと執事の白虎だけだった。
白虎はこの邸で唯一の人間で、少年にとっては頼りになる兄貴分であった―――
「私も今日で28歳になってしまいました…。」
そういって、苦笑いする執事。
「僕はいくつだっけ」
「いま12歳です(ニコッ♪」
そんなたわいもない会話をしながら花畑に戻り、少年はすぐ続きに取りかかった。
今度は、執事が昼寝をしている。
少年は執事の誕生日に合わせて花の冠を作っていた。菫、タンポポ、カタバミの花で作った、朱雀特製の冠だった。
寝ている執事を横目に、慎重に冠を作っていた。
こうして完成した花冠を、少年は執事の顔の上にかざした。
その甘い香りに鼻をくすぐられ執事は目を覚ました。
「…?それは……」
「お誕生日おめでとうっっ!」
少年はそっと執事に冠を被せた。
執事は少し照れながら「ありがとう朱雀♪」
と言い、少年の頭を撫でた。
少年と執事の秘密の約束―――
それは二人きりの時には『朱雀』『白虎』と呼び捨てにすること――
普段やってしまえば、白虎の首は飛んでしまうだろう。
「朱雀、もうこんな時間ですよ。お屋敷に戻らねば!」
気づくと少年は勉強の時間になっていた。勿論、先生は執事である白虎だ――。
屋敷に戻った少年は部屋で教科書とにらめっこをしていた。
「ねーねー白虎、」
「はい?」
「白虎は子どもいるの?」
「いますよ」
いつになく執事の優しい笑顔に少年は興味をだいた。
「女の子?男の子?」
「多分…男の子でしょうね」
今度は悲しげに笑う。
「?」
「実は…会ったことが無いんです。名前は『朋也』っていうんだそうですよ。」
少年はハッとした。
―――そうだ。白虎は僕の世話をずっとしてくれている。今まで白虎は1日も休みをとったことが無い――と。
「今日ぐらい休んで会いに行ったら?」
「いけません。私は父親失格なんです。」
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