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A県の南西にある刑務所
他の囚人たちから離れ
看守たちからも離れた
光が当たらない暗い独房
はっぴばぁすでいとぅーみー♪
はっぴばぁすでいとぅーみー♪
彼はそこにいた
「しっかし薄気味悪い歌だなあ…」
「というか彼の声初めて聞いたよ」
「私もだよ」
二人の話声と三人分の足音が独房に近づいてくる
はっぴばぁすでいとぅーみー♪
はっぴばぁすでいとぅーみー♪
足音は独房の前で止まった
「ここです」
「えっと、この歌は?彼は今日誕生日なのですか?」
先程の二人の声とは違う、女性の声が問い掛けた
「らしいですね。正確な情報はないのでわからないんですけど」
はっぴばぁすでいとぅーみー♪
はっぴばぁすでいとぅーみー♪
祝う歌
自らが生き続けることで達成する
祝うことができる
歌うことができる歌だ
独房の中の男はそれを歌い続けている
はっぴばぁすでいでぃあ♪
「佐渡くーん♪」
…………
女の声で歌は止まった
「……そこは正和にしてくれ」低く感情が込められていない声が独房から響いてきた
「あ、すいません。名前知らなかったんで」
この女、口では謝っているが、絶対に悪いとは思っていないのがわかった
証拠に顔にはここに来た時と変わらない満面の笑みが張り付いている
もっとも 独房の扉に様子を伺える窓や穴は一切ないのだが
「佐渡。先週伝えたと思うが、お前はこの松村先生が引き取られることになった。今からお前を護送する」
「……」
看守の説明に独房の男――佐渡正和は無言のままだ
今日は歌い続けていたが、この無言こそが彼の日常でもある
この独房は刑務所のかなり奥に位置し、大体の外の音は届かない
そんないたって静かなこの場所に存在する唯一の音が
彼の生活音だ
食事を取るとき
排泄するとき
彼が生きているがためにする音
そんな場所から
ある日突然歌が聞こえてきたのだ
初めに聞いた看守はあまりの恐怖に気絶しかけたと言う
「では扉を開ける」
ガチャ
ギギギギギギギギギ
重く軋んだ音をたてながら
ゆっくりと独房の扉が開いていく
扉を開ける看守
佐渡を威嚇するためスタンガンのような武器を構える看守
二人の看守は緊張と恐怖がおり混ざった表情で扉の中に目をやっている
49人の連続殺人を犯した囚人
佐渡正和から目を離さないように
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