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「この策…成ると思うかの、陽視(あけみ)?」
「勝算がお有りだからこそ、竜宮におわす乙姫様に進言なさるのでは?」
白子(アルビノ)の婦人の問いに微笑みを浮かべて返す妙齢の美女。
二人は主従である。
彼女達は今にも討伐されそうになっている一人の男性を救う為に、彼女達の上司に当たる存在がいる竜宮へと向かっていた。
その一人の男性とは白子の婦人の夫であり、彼女が任されている妖怪の世界の半分を統べる男である。
彼女の名は巳水妃(みずき)。
白子(アルビノ)で豊満な肢体の妖艶な女性である。
白蛇妖が修行を経て、神へと成り上がった存在で、乙姫より妖の世界の和魂(ここでは善妖を指す)の管理を任されていた。
その容姿と母性的な性格から、昔は数々の男妖と浮き名を流したが、夫に嫁いでからは夫一筋で知られている。
かつて一度だけ筆下ろしの相手をした、乙姫の息子である龍神に懸想されているが、拒否し続けている。
夫に嫉妬心を抱き、討伐令を出した男だから尚更に。
その夫の名前は王蛇(おうだ)。
涼やかな男振りの偉丈夫で、生真面目な性格である。
大蛇(おろち)が修行を経て神に成り上がった存在で、荒魂(ここでは悪妖を指す)の管理を任されている。
剣技は妖の世界で一番の腕だが、策謀の類に滅法弱くて、妻の留守中に突如現れた妖狐に誑かされてしまったのである。
それは、この世界の悪妖はこの妖狐の支配下に陥った事を意味する。
それ故の討伐令だが、巳水妃は策略の匂いを感じていた。
何者かが、妖狐に策を与えて夫を誑かさしたのではあるまいか、と。
何よりも最愛の夫が討伐令の巻き添えを食らい、死するのが耐えられない。
もし事が上手く運ばねば、自ら妖狐の所へ赴いて討伐してやる。
そして返す刀で夫と心中してやる。
けして、あの龍神の描く絵通りにさせてたまるか。
だが、その前にこの策を以て竜宮へ乗り込む。
勝算はある。
彼の者が自分の願いを聞いてくれれば、策は成ったも同然なのだ。
問題は、彼の者が目的を果たす前に他の女と…
「むう…それが一番の心配の種じゃのう」
「何か?」
「済まぬ、独り言じゃ」
巳水妃は傍らの女性に微笑みながら言った。
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