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「多分、あの方は私を大事にしてくれると思います。けど…優しさだけではずっと一緒に居られませんですから…」
悲しそうな表情で陽視が言う。
それは陽視自身と巳水妃しか知らない彼女の内なる闇。
その闇を祓う事の出来る人物が彼の者とは、この時点では誰も気づかなかった。
「お、巳水妃、久しぶり~!琥珀様は相変わらずぽややんだね~!」
そう陽気に語りかけてくる人物。
一言で言えば傾き者である。
孔雀の羽飾りをつけて、錦蛇柄の着物を着たキツめの美少女。
彼女の名は真砂(まさご)。
乙姫の義娘で龍巳とは腹違いの姉である。
人間界では清姫の名前で知られている。
次期乙姫として周囲に認知されてる存在で、能力も申し分ない。
少々性格に難があるが、良き夫を迎え、その者が補佐をしてくれれば無事任を果たせるだろうと言われていた。
乙姫はその補佐に王蛇を、と考えてお見合いをさせたが、相性が最悪だったらしく、失敗に終わっている。
彼女の好みは自分だけを心から愛してくれる、優しくて純真で可愛らしい男であった。
「あのバカどうしたの?何か泣き叫ぶ姿がすっげえうぜえから、袋叩きにして、服ひん剥いて放置してきたけど」
「ほんに、お主は弟に対して容赦ないのう…」
「え~?だってアイツムカつくじゃん」
龍巳の歪みの原因の一つは彼女の苛めとも噂されている。
「母上、待ってるよ。さて、どういった策を披露してくれるんだか。楽しみにしてるよ」
「お主は同席せんのか?」
巳水妃の問いに笑いながら答える真砂。
「悪いね。アタシ会議ってのは性に合わないんだわ」
「次期乙姫がそんなではのう…」
「何なら巳水妃が継げばいいさ。アタシは苦手だけど、王蛇は少なくともあのバカよりは器が上だしね。アンタと王蛇で乙姫と龍神を継ぐってのも有りだと思うよ」
「お主はどうするのじゃ?」
「さてね…風吹くまま、潮が流れるまま…かな?どうせこんなアタシの面倒見切れる男なんていそうにないし…」
そう言って真砂は去っていった。
そんな彼女の面倒を見切れそうな男の存在が会議で明かされるのを知らずに…
そして三人は乙姫が待つ謁見の間へと入っていった。
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