罅割れたガラス瓶

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キャンディが入ったガラス瓶。 大好きな人からもらった大好きなキャンディ。 いつも、頑張ったご褒美に食べていた。 それも、残り1つ。 昨日、仕事の企画が通った。 前から念入りに用意していた私の案。 でも、瓶に入ったキャンディは食べなかった。 一昨日は、栽培していたバラのつぼみが開いた。 毎日欠かさず手入れしていたバラの花。 でも、瓶に入ったキャンディは食べなかった。 だって、残り1つ。 これを食べてしまったら、すべてが終わりになってしまう。 大好きな人の思い出が、本当に思い出だけになってしまう。 私のもとに残ったのは、彼との思い出とこのキャンディが入ったガラス瓶。 終わりなのはどこかでわかっている。 でも、本当はわかってないのかもしれない。 最後の、残り1つ。 これを食べてしまったら。 空のガラス瓶だけが残ったら、きっと寂しい。 それとも、何かが吹っ切れるだろうか。 私はどうすればいいのだろう。 どうしたいのだろう。 キャンディが入ったガラス瓶。 先にすすめない私。 足元に、黒猫が縋りつく。 黒猫は、ぴょんとガラス瓶のある棚に跳び移る。 数歩歩いてガラス瓶の前で動きが止まる。 ころん、と。 ガラス瓶は黒猫に落とされた。 床に落ちたガラス瓶は鈍い音を立てた。 キャンディが入ったガラス瓶。 ガラス瓶には罅が入った。 黒猫は何もなかったかのように棚から降りて、気の向くままにどこかへ行った。 私はガラス瓶を手に取って。 当たり前のように、戸棚の奥にそれをしまった。 けれど、もうその姿を見ることはないだろう。 罅割れたガラス瓶はずっとそこに在り続ける。 黒猫が戻ってきた。 私は久しぶりに笑った。 END.
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