落ちこぼれの日常

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「無理だ!数が多すぎる!」 視界全てに移る異形の大群中、相棒が叫んだ。 草原の中心に背中合わせで立つ俺と相棒。 緑色の草はもはや赤黒く染まり、異臭を放っている。 草から滴る血液が自分のものか、魔物のものかはもはやわからないが、それは朝露のようで、なんとも儚く感じた。 「……ここでやらなきゃ誰がやるんだよ」 俺は静かに呟く。 そうだ。俺たちはもはや人類の最終兵器。 俺たちがやられたなら、この世界は終わる。 「ならせめて戦略的撤退を……!!」 「……ここからか?」 前も後ろも魔の物で埋め尽くされている。 それらはゆっくりと近付いており、もはややられるのも時間の問題だ。 唯一、逃げ出す方法は転移魔法を使うしかない。 しかし、転移魔法は俺しか使うことができず、さらに莫大な魔力を使う。 例え使えたとしても、一人運ぶだけで精一杯だ。 静かに目を閉じる。 ここまで俺を育ててくれた父や母。 傭兵学校で荒れ狂う俺を指導してくれた先生。 そして……愛する妻や子供を思い出す。 ごめんな……俺、約束守れなかったよ……。 いつも勝手な俺を支えてくれたお前にはまた迷惑かけるけどさ、許してくれよ? 瞳を開き、体内に駆け巡る魔力を一ヵ所に束ね、操る。 そして、唱える。 「我望む。時空と時空を紡ぐことを」 静かに呟いた。 その声は少し、揺れていた。 言葉は風にのり、どこまでも響いた気がした。
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