落ちこぼれの決意

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居づらい。 ただひたすらそう思う。 今いるのは特殊警察署の中のとある一室。 窓と机と椅子しかまともな飾りはなく、あとは灰色の壁のみ。 壁からはなんの光も射してこない。 正確な時刻は分からないが、夜の九時を過ぎていることは確かだ。 日にちは俺が紐無しバンジーをした翌日だ。 この部屋には里穂さんと俺の二人きり。 里穂さんは俺の顔を見ずに、ずっと床と視線を合わせている。 何故なら事の真実を聞いたから。 真実というほど、大袈裟なものではないが、けれど彼女にとってはとてつもない真実だろう。 自分が軽蔑した相手が被害者であり、自分が守った相手が加害者。 それが殺人未遂となればなおさらだろう。 いい気味、と思ってしまった俺は、どうしようもない野郎だが、訂正する気持ちはこれっぽっちもない。 ちなみによっちゃん――義明という名前らしいが、そいつは今ここにはいない。 十八歳未満の少年、少女が捕まった場合どこにくのか俺は知らないが、そこに送られるらしい。 ついに、というべきか、彼が今までしてきた悪行が、次々にバレていった。 理由は俺が庇ったあの女の子が、全てを親に話し、前田家から被害を受けた被害者たちが結成した会に連絡した。 押さえ込んでいた怒りがついに爆発し、警察署……ではなく生放送中のテレビに緊急のゲストとして全てを話した。 被害者の会には色々な職業の方々がいたようで、その中にディレクターが居たらしく、放送局の許可も取らずに流したらしい。 なぜ放送局かは、もちろん金により警察が動かなかったせいでもあり、それも世間へと広まった。 署長、金を受け取っていた奴らも辞任(署長が金を受け取っていた奴らの名を出したのだ。道ずれということだろう)し、前田財閥も大変なことになっているらしい。 しかし、放送を見て、最後に彼らが放った言葉は今も脳に焼き付いている。 「私達がしたことは、私達被害を受けた者からすれば正義であり、正しいことです。しかし、これにより直接関係ない方々にも被害が及ぶかもしれません。その人達からすれば私達は悪でしょう。しかし、私達は正しいことをしました。それはわかってください」 とのことだった。
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