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教室、廊下の両脇から安野に向けられる視線。
好奇のとか、もうすっかりメンチ切っちゃってんのとか、危うく手が出そうになるのをそうしないのは、ここに九条が居るからだ。
ちゃんと、顔が把握できる距離にいよいよ近づいてきて。
迂闊にもゴクリと唾を飲み込んだ。らしくもなく緊張とかそんなんで。
「よう、」
「久しぶり、」
別に約束とかしてたわけじゃあないのに、ピタリと安野の足が止まる。九条の前で。
なんつうか、王の留守を預かってた騎士みたいに。
1年のときから連るんできたけれど、九条にそういう雰囲気を感じたことなんて1度も無かったのに、王座の前そこに跪く、急にそんな風に見えた。
だから見てなくてもオレには安野って男が強いんだってわかった。
結局、安野は九条の誘いを断った。
九条についてるオレら、みんなは九条が安野をトップにつかせるってんならそれでいいって思っていた。
けれど安野は、
「あー、何かな、九条悪ぃ…オレ、今そーいうのに興味ないんだわ」
バツの悪そうに後頭部をポリポリ掻きながらそう言った。
九条はただ、そうかとだけ言って、やっぱり見たことの無い顔で笑うだけだった。
それから数日。
同じクラスってことで安野とは仲良くしてるんだけど、そん時感じたなんつうか凄ぇって感じは無くなった。
ただ…
「ほんっと、あの変態野郎ムカツく」
「…なんだよ、また藤森んことかよ」
気が短くて、よく噛み付いて。
九条がストッパーって様が、何となく頭にちゃんと浮かんで笑えた。
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