君島というおとこ

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コンビニの自動ドア横の貼り紙。 安野はそれを凝視していた。 前の学区でもバイトはコンビニで、同じ系列だし、ここにしようかどうしようか、そう思い中のレジを覗いた。 はずだったが、先にレジに店員よりガラスに写った男が目に入った。 昨日、屋上でそういったわけではないが結果、挨拶をかわすこととなった男、3年の君島だ。 安野は振り返らない。 もう1度、ガラス越しに見る。 横に、後ろに仲間が居ないか。 どうやら一人らしく、じわりと一瞬で汗ばんだ握った掌を解いた。 「安野ちゃん、」 とても喧嘩っていう雰囲気ではない軽快な君島の声に、では勧誘かと安野はそれはそれで困ると振り返った。 「…なんすか…」 「バイト?」 睨むまではいかないが、怪訝そうな顔の安野にはおかまいなしで、君島は後ろの貼り紙を覗き見る。 「やめときー、ここの夜勤の男、ちょう汗くせーし、冬でも」 「…マジっすか…」 君島の意図がわからない、ただ汗くさい男と一緒は嫌だ。 そうして、安野は破顔する。 「バイトなんかで稼ぐより…安野ちゃん、オレの女になりなよー」 へらへらとその類稀なる美麗な顔で、君島がそんなコトを言い出すからだった。 「……は?」 「オレ強いし、」 ニコ、っと君島。 「金だって困んないし、」 眉間に深いシワを寄せる安野。 だいたい、はじめからチャン付けってのがおかしい。 「もちろん、エッチだってうまいし!」 ……最後のが一番理解できない。 「……は?」 もう一度安野。 「だーかーら、オレと付き合わないかって話、うん、男同士だけど、安野ちゃんかわいーし」 ご丁寧に理由つきで思ったよりも大きな声、コンビニから出てきたお姉さんがちょっとビックリするくらいの声で言われれば、安野も理解できた。 信じることはできないが。 もちろん丁重にお断わりしたが、あとから音羽に聞けば君島はそういうヤツらしい。 無駄にいい顔と、男も惚れる腕っ節で女遊びならびに男遊びも派手だという。 安野はこうして君島からは下につけというよりも、屈辱的なアプローチを受けることになった。
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