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小雨降る。
何が気にくわないって、後ろの男が悠長に傘をさしながら歩いているからだ。
雨を理由に走ってしまおうかとも、安野は思うもそれも癪に触る。
何故ならば後ろの男が藤森だからだ。
「ち、ストーカー野郎」
ポツポツ降る雨では吐き捨てた呟きは聞こえないだろう。
…はずだが、
「駅に向かってんだよ、お前のケツなんか見てもつまんねぇよ」
地獄耳。
「なっ!け、ケツって!やっぱてめーのがホモなんじゃねーかよ!」
思わず安野はバッと後ろを振り返った。
透明のビニール傘が羨ましい姿。
ムカつく。
「いちいち自意識過剰だな、なんならなんだ、」
好かれたいのかという藤森の言葉を聞きながら、安野の視線はは藤森の後ろを捉えていた。
濃い緑色の学生ズボン。
数メートル離れていても、あまり品のいいとは言えない外見と歩き方。
手には所謂凶器に成りうるもの。
ただ通り過ぎるとは思えなかった。勘だ。
珍しく突っかかってこない安野を不思議がり、藤森も後ろを振り返る。
それで、まゆを寄せ藤森は嫌な顔をした。
小雨はやがて本降りに。
2人の背中が合う。
「なんでオレまで巻き込まれなきゃなんねーんだよ、」
藤森を狙ってきた他校生だ。
出来たばかりの水溜まりがびしゃりと音をたて、凶悪面の男の脚が振り上げられた。
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