見切り発車

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やがて、安野の視界から遠くなり消えていったのが、2年を2分する勢力のひとつ。 D組の連中を中心とした輩のトップ、藤森冬治だ。 「安野宗太」 藤森は呟く。 思ったより、ガキ臭い顔で、それでいて迫力もなく、覇気もない。 それがかつて、東都中を1年にして制覇し、近隣中学3中をシめた鬼神とは到底思えそうにはなかった。 噂に尾や鰭がついて、その類の話なのか。 東都中の安野の編入につい3日ほど前、学校中がざわついた。 3年の君島のところか、2年の九条のところか、そうして藤森のところか。 誰が組み入れるのか1年や他の生徒達の間で話題になった。 確かにいまだ注目を集める話題なのだが、当の本人安野は全くそういう話に、というか喧嘩だとかそういうのに興味が無いらしかった。 この学校は、安野の思うのとはまったく正反対で、喧嘩、そうして強いことが全てなのだ。 そういった連中の溜まり場、名の知れた男が中立だとか、無干渉だとか許されるわけがないのだ。 踵を踏み潰した上履きを、埃っぽいコンクリートの床に落とす。 だるそうに屈んで外履きを取り上げながら、藤森は思いだす。 安野が自分の顔をここ3日みるだけで、目くじらをたてる原因になったことを。
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