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桜の花が落ち、緑色の葉がまぶしい並木の間。
腰くらいまでの植え込みに縁取られた中庭から校舎へ続くコンクリートの道。
その左端、一歩づつ横に歩いてはしゃがみ、歩いてはしゃがみ。
挙動不審な男を藤森は前方に見た。
自分が用事があるのはその先の体育館へ繋がる渡り廊下の入り口であって、その視界の先の人物ではない。
おそらく何かをさがしてるのだろうが、後ろをただ通り過ぎるだけ。
そんなふうに詳しくは考えないが、藤森はその男の横を通り過ぎる。
…過ぎろうとしたところ、
「ぎゃぁあっ!!」
抱きつかれた。
男に。
ぎゅうっと。
「……」
藤森の視界の下、薄茶色の髪の毛と、しっかりと背中、腰元に回された腕は決して細くはなくて、張り付いた胸は平らでふくらみはない。
れっきとした男にだ。
と、と、とっと、足元を白いネコが走り抜けていく。
茂みに消える前に、ひとこえ。
「にゃあ~」
と、鳴いて。
「……」
ひと段落ついたところで、藤森はネコから視線を戻すと、再び目の下にある旋毛をみた。
抱きつく肩が若干小刻みに震えている。
「……」
沈黙が続き、どうしたものかと青い空を目だけで見上げ、
「おい、お前ホモか?悪ぃけど、オレはそういう趣味はねぇし…」
離れろよと、最後まで言う前にばっと勢いよく、頭が上がった。
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