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「安野、」
「おう、九条」
2年藤森と勢力を二分する九条夏。
中学時代安野の相棒として名をはせた男。
もともと優しい目つき、柔らかそうな物腰のせいか女にモテた記憶が安野にはある。
「ん、」
「お、サンキュー、今日発売のじゃん」
差し出された週刊誌を安野は九条から受けとる。
「先にいーの?」
「いいよ」
こういうとこが気がきく。
やっぱり九条だよなあと、安野。
思えば散々あばれまくったあとの色々な片付けだとか、タイマンの日時だとか、バイクで迎えにきてくれたりとか、中学のときは世話になったものだ。
ほくほくした顔で安野は上履きを履いたところでページを捲り始める。
その様を見る九条の視線が、どれもダルそうな足どりで下駄箱の先、教室へ向かう生徒の中、藤森の姿を捕らえた。
安野を挟んで、2人の視線が交わる。
睨みあうとは違うそれだが、椿之東を3分する勢力の2つのトップが顔を合わせる場面に周囲が一瞬ざわつき、緊張が走った。
気づかないのは、
「あー、くっそ、今週ここで終わりかよー、あーいいとこなのによー、なー、九条…?」
ん?と雑誌から視線を上げた安野が不思議そうに首を傾げる。
それに九条の視線がふっと藤森からそれた。
それと同時にふんわりとした優しい眼差しに九条の瞳が戻る。
さっきまで九条が何を見ていたのか、安野が視線を彷徨わせれば、
「あ!このストーカー野郎!まだいたのかよ、とっとと行け!つかテメェは逝け!」
藤森の姿にぎゃあぎゃあと噛み付いた。
藤森はまた、ふっと笑う。
ちょっとばかにしたように。
「くっそ!ムカつく!」
「安野、」
九条が安野の肩に手を置き宥める。
何だか昔と変わらないなと、思うも九条の心中はざわつきが止まらないでいた。
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