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ガチャリと錆びたどこか壊れた音みたいなのと一緒に、屋上の鉄扉が開く。
ワンセグの午前中の芸能ニュースの声。
新聞を捲る音。
空と同化するタバコの煙。
振り返る男ら。
その間を新緑の匂いの風が通り抜けて、ドアを開いた安野の頬を撫でた。
「……」
黙ったまま、右から左、手前から奥を安野は見渡した。
ざっと10人近く。
奥、赤い髪の男と、色の抜けた眺めの長髪の男。
さらにその奥、金網の前の空きスペース。
そこならタバコを吸えるだろうと、男達から視線を外し、薄い中履きを進める。
「城ノ内、」
赤い髪の男を呼んだのは、長髪の男。
「……」
呼ばれた男、城ノ内は唇を結んだまま隣の平たい教室用の椅子に座ったままの男、彼こそ3年トップの君島を見た。
この命知らずの男をどうしようか?そんな意で。
おそらくこんなことをするのは今この学校では、3日前に転校してきた男しかいないだろう。
東都中の鬼神と呼ばれた男、安野。
「おい、テメェ」
先に声を荒げたのは目つきの悪い男だった。
「おいおい、木戸、あれじゃねぇか?編入してきたあの、安野って野郎じゃねぇのか?」
もうひとりの男が、目つきの悪い男を制する。
「ああ、なるほど、君島さんとこに挨拶にきたのか、それとも下につけてくれってことか?」
安野は仏頂面で、うざったそうに2人の横を過ぎる。
「おい!」
呼び止める声もまるで無視。
「…君島、」
君島の言葉の続きを待っていた城ノ内が流石に口を開く。
君島の視線は城ノ内を呼んだ時と同じまま、安野を捉えていて。
幾分、唇が半開きだ。
ぼそりと、
「めちゃ、カワイーし…」
城ノ内の耳には確かに君島がそう呟いたのが聞こえた。
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