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「るいー今日の約束、大丈夫?」
会社の休憩室でコーヒーの紙カップを両手で包み、ぼんやり窓の外を眺めていた藤野瑠依(24)は、声がした方に視線を移して頬を緩めた。
「あ、美穂さん。お疲れ様ー」
瑠依の先輩である杉崎美穂(28)は自販機でコーヒーを買いながらくすりと笑う。
「またぼんやりしてたでしょう? 瑠依は相変わらずだねぇ」
温くなってしまったコーヒーを一口飲みながら、瑠依は苦笑する。
「秋だなぁ…なんて思っていたら、ずいぶんと時間が経過していたみたいです」
「ホント、相変わらずですこと」
美穂はくすくすと笑いながら、向かい側に腰を下ろした。
「今日、朔夜が残業で遅くなるんだって。先に食べててって言うから、居酒屋で待ってようよ」
「うん。でもいいの? あたし、お邪魔でしょう?」
その言葉に少し驚いた美穂が、おかしそうに笑った。
「何言ってるの。あたしがいいって言ってるのよ? なんで邪魔になるのよ」
「う~ん…でも朔夜さん、久しぶりに美穂さんと一緒だって喜んでそう…あたしがくっついてたらイヤだと思うんだけどなぁ」
瑠依はぼんやりと美穂の彼氏である林朔夜(28)の穏やかそうな顔を思い浮かべた。
人懐っこい笑みとトークが魅力的な朔夜は弁護士で、実はヤリ手なのだというのだから不思議でならない。
初めて美穂の彼氏だと紹介されたとき、バリバリ仕事をこなす姐御肌の美穂と釣り合いが取れないのではとこっそり失礼なことを思ったのは内緒だ。
「朔夜もさ、瑠依みたいな妹が欲しかったとか言って、すごく気に入ってるのよ。たまには付き合ってやってよ」
美穂は紙カップに唇をつけながら微笑んだ。
「美穂さんがそう言うならいいんだけど…。邪魔になったら言ってね? さりげなく退散するから」
瑠依は困ったように笑ってから、もう一度窓の外に視線をずらした。
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