幸せの空の下

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「悪いっ! 遅くなった!」 朔夜は、待ち合わせをしていた居酒屋に1時間ほど送れて到着した。 「お疲れ様ー。朔夜さん、今夜も美穂さんに纏わりついていてごめんなさいー」 瑠依はにこやかに頭を下げる。 「ああ、ええんよ。俺が瑠依ちゃんも誘えって美穂に言ったんやから」 ネクタイを緩めながら、朔夜は微笑む。 美穂の隣に腰を下ろしながら、傍を通ったスタッフにビールを注文して、もう一度笑う。 「で、あなたたちは定時でここへ?」 「もちろん。うちの会社、よほどのことがない限り残業なんてないのよー」 美穂は自慢げに胸を反らせ、瑠依に向かって「ねー?」と首をかしげる。 「いいなぁ。俺もそっちの会社に移りたいわー」 スタッフが持ってきたお通しを箸で摘みながら、朔夜はふぅとため息をついた。 瑠依は運ばれたビールをスタッフから受け取り、朔夜に手渡す。 「サンキュ、瑠依ちゃん」 そう言ってから、朔夜はおいしそうに喉を鳴らし、ジョッキーの半分ほど一気に飲み干す。 「そういや美穂さん、来週は出張だっけか?」 「そうなのよ。バカ課長が直前でミスなんかするから、急遽あたしがペコリ隊に任命されちゃってさー」 美穂は眉間に皺を寄せてビールを煽る。 「美穂さん、キレイなお顔が台無しですよ」 朔夜はそう言いながら、美穂の眉間にそっと触れた。 その手を迷惑そうに振り払いながら、美穂はくすくす笑う瑠依に視線を向ける。 「何笑ってんのよ?」 「えぇー? だって…ペコリ隊って…」 堪えきれず破顔した瑠依を美穂は恨めしそうに見やる。 「あんたも一度同行させたいわよ! ホントにペコリペコリ頭を下げるだけなんだから!」 「それにしても謝罪部隊をペコリ隊と言ってのけた美穂さんはすごいなぁ」 朔夜も笑い出してしまったせいで、美穂はすっかりごきげんナナメだ。 「もう絶対に瑠依に会わせてやらないんだからっ!!」 美穂は朔夜をジロリと睨み上げ、残ったビールを一気に飲み干した。 ダンッとテーブルにジョッキーを叩き落すように置き、睨みつける。 「いや、堪忍ってー美穂さん~」 朔夜は慌てて美穂のご機嫌取りを始める。 そもそも最初に笑い出したのは自分だったのに、いつの間にか怒りの矛先が朔夜に向いてしまって、瑠依は悪いと思った。 しかし、その様子すら笑いのツボに入ってしまった瑠依は、涙が流れるまで笑い倒し、朔夜に苦笑されていた。
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