《エピローグ》

2/2
前へ
/17ページ
次へ
「ねえベル、最後にもう一つだけ聞いてもいいかな。」 「はい。何でしょう?」 ベルは、最初に会ったときのように、にっこりと微笑んだ。 「キミはさっき、僕が人間になったことに、『おめでとう』って言ったね。本当にそう思うかい?」 「はい。」 ベルは、いつもの静かな、けれどハッキリした口調で答えた。 「願いが叶うほど強い想いを持てることは、それだけで素晴らしいと信じています。 それに・・・、 人間、永音博斗の生きた時間は、決して無くてもいいものではなかったと、私は思います。」 僕は、ポロポロと涙がこぼれるのを、止められなかった。 「また、人間になりたいですか?」 ベルがそう聞いてきたので、僕は逆に訊いてみた。 「そう願ったら、叶えてくれる?」 「私にはそんな力は有りません。」 ベルは真面目顔で答えた。 「でも、もし願うのなら、強く想うことをお勧めします。」 僕の想いは決まっていた。 「猫になるよ。」 そして、真っ白な、低いのか高いのか判らない天を仰いで、句切り、句切り、ゆっくりと声に出した。 「もしも、願いが叶うなら、 黒猫になって、もうしばらく、 アスミを、見守っていたい。」 「その願いが叶う事を、私も願っています。 では。」 それだけ言うと、ベルは、真っ白な翼を音も無く羽ばたかせて、飛び上がった。 僕は彼女を見送ろうと立ち上がったが、その眼に映る彼女の姿も、僕の記憶も・・・、 何もかもが、あっという間に、白い霧のようなものの中に消え去り・・・、 『リン・・・。』 澄んだ、微かな鈴の音だけが、いつまでも鳴っていた。 まるで、僕の想いを乗せて、響き渡るように。 キミにも聞こえるかい? アスミ・・・。image=345675064.jpg
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加