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正論である。
確かにその通だが、あまりきっぱり言われると、やっぱり腹が立つ。
はいそうですかと認めるほど出来た人間ではないのだ。
「いったい何に負けたって言うんだ?」
僕はなるだけ意地悪な調子で聞いた。
ベルはすっくと立ち上がると、翼を持ち上げて腰の後ろで手を組み、僕に向かって話し始めた。
「この世界は、今までに、数え切れないたくさんの命を生み出しました。
そしてこれからもずっと、生み、育み続けるでしょう。
生まれた無数の命は、全て、必ず失われます。例外はありません。
世界の単位で見れば、一つの命どころか、一つの種類が生まれて消えていく事さえ些細なことだとも言えます。」
まるで学校の先生みたいだな。
何が言いたいのかよく判らないし・・・。
ベルの話す姿を見ながら、僕はそんな事を考えていた。
「ヒロトさん。」
「な、なんだよ?」
突然呼ばれて、僕はドキリとした。
「先程、猫が一匹死んだだけとおっしゃいましたよね。」
僕は無言でうなずいた。
「確かに、世界の単位では、猫一匹なんて『たかが』かも知れません。
けれど命は、その一つ一つが、どれも奇跡のような偶然が幾つも幾つも積み重なって、初めて生まれるんです。
それは単なる偶然の域を超えた必然だとも言えます。」
「はあ。」
「『はあ。』じゃありませんよ。」
ベルは、僕にグッと顔を近づけた。
「そうやって生まれた命は、死ぬまで、そして、また生まれるまで、想い、悩み、焦り、願い、一生懸命に時を過ごしているんです。
鯨も、ネズミも、ヒマワリも、人間も、猫だって。
そうですよね、ヒロトさん。
・・・あなたと、同じです。」
「う、うん。」
鼻先で見つめる、黄金色の瞳に、僕はそれだけ返事するのが精一杯だった。
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