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「私も・・・、人間はすごいと思います。
たくさんの智恵を持ち、智恵を伝える手段や、道具を考え出す。
けれども、その『すごさ』は、『強さ』とイコールじゃないんです。」
「強さ?」
「はい。人間が戦わなければならないものに勝つ強さです。」
んん?
またよく判んなくなってきたぞ。
「人間は、その智恵のために、色んな事が判ってしまうでしょう?」
ベルは、喋る速さを押さえて続けた。
まるで、僕の頭の上に浮かんだ『?』マークが見えたみたいに・・・。
「例えば、どんなに死にたくないと想っていても、いずれ必ず終わりが来ること。自然の摂理ですが、人間は運命とも呼びますね。
それから、自分と他者を比較することから生まれる、様々な欲や嫉妬。
人間は、智恵と引き換えに、運命や、自分自身の心と向き合わなければならなくなりました。
その戦いに易々と勝てるほど、人間は強くはないんです。残念ながら。」
そうか。
ベルの言うことが少しだけ判ってきた。
つまり、自分に負けたんだな。僕も、・・・アスミも。
僕は、自分のプライドを守りたいという自尊心に負けた、もっと大切に守るべきものが有ったのに。
アスミは、取り返しのつかない大事なものを失ったという悲しみに負けた。取り返すことは出来なくても、乗り越えることは出来たのに。
「!!
何てことだ・・・。」
僕は、或ることに考え至って愕然とした。
「ヒロトさん?」
急に顔色を変えた僕を心配してか、ベルが呼びかけた。
僕は、唇が震えるのを我慢しながら、さっきと同じことをもう一度聞いた。
「アスミは、僕が死んだことで、悲しむだろうか?」
「はい。きっと。」
ベルの答えは、さっきと同じだった。
僕の望んでいた答えは、今度はまったく逆のものだったのに。
アスミは、自分を責めたりしないだろうか?
アスミは、悲しみと、自責の念に負けてしまわないだろうか?
アスミは・・・。
僕はたまらなくなって、不意に立ち上がった。
立ち上がって、何も出来ず、そのまま立ちすくんだ。
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