《天使のような少女》

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「会ったことあるよね?」 「はい?」 「僕が生まれる前。前に・・・。」 僕は、彼女の顔をじぃっと見つめたまま、自分の記憶の中の映像と照らし合わせた。 「僕がこの前、死んだとき!」 彼女は、口に手を当て、大きな目をぱちぱちさせた。 「すごーい。覚えてるんですか?」 珍しい生き物でも見つけたような口調だ。 「今思い出した。僕は、薄灰色の猫で・・・」 「前のときも、交通事故でしたね。」 彼女が後を引き受けた。 「名前は確か・・・。」 「? お名前有りましたっけ? ノラ猫さんでしたよね?」 「キミの名前だよ。 聞いたよね。あの時。」 彼女は、『ああ。』という表情をして、 「あらためまして、ベルです。ベル・リーデンド。」 ぺこりと頭を下げた。 「そう。ベルだ。」 僕は、利き手の指をピストルの形にして上下に振った。 思い出し始めると、次々色んな事が思い出されて来る。 確かに『前』のとき、僕には名前が無かった。 「今度は、僕にも名前があるよ。」 「はい。永音博斗(ながねひろと)さん。ですね。」 そう。彼女は・・・、ベルは知っているんだ。自分が導く、僕のことを。 ベルの仕事は、死者を導くこと。 いや、彼女自身は、ただ『知らせる』ことだと言っていた。 事故なんかで急に死んでしまい、自分が死んだことを気付かずにいる誰かに、『死を知らせる』だけだと。 けれど僕は、ベルに導かれたと感じている。
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