《天使のような少女》

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「ヒロトさ~ん。もしも~し。」 ベルが呼んだ。まるで、山で「やっほー」と言うときのように。 どうやら、物思いにふけっている僕をずっと呼んでいたらしい。 「あ。ごめん。一度にたくさんのことが思い出されて、ちょっと頭がいっぱいいっぱいで・・・。」 「すごいですね。そんなに『前』の事を覚えてるの、珍しいですよ。」 ベルの羽の毛が、もこもこと膨らんでいる。 どうやらお世辞でなく感心しているようだ。 「次回は、」 ビシッ!! という効果音が聞こえてきそうな勢いで、ベルが、僕の目の前に、人差し指を突き出した。 「交通事故に注意してくださいね。」 「は、はい。」 その勢いに気圧されて、僕は殊勝に返事をした。 「では。私はこれで。」 ベルが突然お辞儀をした。 そのまま踵を返すと、羽がフワリと広がっていく。 「えっ!! ちょっ、ちょっと待って!!」 慌てて呼び止めた。 「? どうかしました?」 ベルは振り返って聞いたが、その姿は、飛び立つ気満々にしか見えない。 「いや確かに、前回の事も思い出したしさ、この後の事も何となく想像つくんだけど、 何て言うか、ほら・・・、 僕、死んだばかりだろ、もう少し落ち着くまでさ、話でも聞いてくれれば、その、忙しいだろうけどさ・・・。」 我ながら、情けなっ。 一生懸命引きとめながら、僕は段々自己嫌悪に陥っていった。 それでも、聞いておきたい事があった。 誰かに話しておきたい事があった。 『次回』が始まってしまえば、きっと忘れてしまうから。 「いいですよ。」 ベルは羽を閉じ、優しく言った。
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