2人が本棚に入れています
本棚に追加
「ヒロトさ~ん。もしも~し。」
ベルが呼んだ。まるで、山で「やっほー」と言うときのように。
どうやら、物思いにふけっている僕をずっと呼んでいたらしい。
「あ。ごめん。一度にたくさんのことが思い出されて、ちょっと頭がいっぱいいっぱいで・・・。」
「すごいですね。そんなに『前』の事を覚えてるの、珍しいですよ。」
ベルの羽の毛が、もこもこと膨らんでいる。
どうやらお世辞でなく感心しているようだ。
「次回は、」
ビシッ!!
という効果音が聞こえてきそうな勢いで、ベルが、僕の目の前に、人差し指を突き出した。
「交通事故に注意してくださいね。」
「は、はい。」
その勢いに気圧されて、僕は殊勝に返事をした。
「では。私はこれで。」
ベルが突然お辞儀をした。
そのまま踵を返すと、羽がフワリと広がっていく。
「えっ!! ちょっ、ちょっと待って!!」
慌てて呼び止めた。
「? どうかしました?」
ベルは振り返って聞いたが、その姿は、飛び立つ気満々にしか見えない。
「いや確かに、前回の事も思い出したしさ、この後の事も何となく想像つくんだけど、
何て言うか、ほら・・・、
僕、死んだばかりだろ、もう少し落ち着くまでさ、話でも聞いてくれれば、その、忙しいだろうけどさ・・・。」
我ながら、情けなっ。
一生懸命引きとめながら、僕は段々自己嫌悪に陥っていった。
それでも、聞いておきたい事があった。
誰かに話しておきたい事があった。
『次回』が始まってしまえば、きっと忘れてしまうから。
「いいですよ。」
ベルは羽を閉じ、優しく言った。
最初のコメントを投稿しよう!