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僕は、ベルと隣り合って腰を下ろした。
何か椅子代わりになるものでもないかと思ったけれど、辺りは相変わらず真っ白なままで、何も見つかりそうになかった。
「アスミは悲しむかな?」
「まだヒロトさんが亡くなったことはご存知ありませんけれど、きっと。」
僕の問いかけに、ベルは迷わずに答えた。
社交辞令でも嬉しかった。
「車に注意してなかったわけじゃないんだ。
まぁ、あのタイミングじゃ避けられなかったと思うけど、だけど積極的に避けることもしなかった。」
「生きたいとは想わなかったんですね。」
「あの日、話したね。薄灰色の野良猫だった僕は・・・、
人間になりたかった。」
ベルは黙ってうなずいた。
「人間は、おいしい物を食べて、綺麗で快適な家に住んで、病気や怪我をしても、治してもらえて・・・。
猫から見れば随分と長生きだし、仲間同士助け合って、空腹や死とは、離れたところで暮らしている。
そんな風に見えて、人間が羨ましかった。だからキミに、生まれ変わって人間になりたいと頼んだんだ。」
「はい、覚えています。
私にはそんな力は有りません、とお答えしました。」
ベルが静かに言った。
「そう。でも本当に願うのなら、強く強く想えと教えてくれた。
そして、僕は人間になった。」
「おめでとうございます。」
ベルは、ぱちぱちと拍手をするような仕種をした。
「僕は、キミが叶えてくれたと思ってる。」
ベルは、首を横に振って見せた。
僕は大きな溜息をついた。
「せっかく人間になれたのに、ずっと『違う』と思ってた。」
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