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『つーか、会社の人に見られるかもよぉ』
『何を?』
『髪を束ねたとこを。つーか、それが輪ゴムってとこをさ。会社ではこんなとこ見せてないんでしょ?』
そう言って笑うユキに、顔の前で手を振り大丈夫と答えた。
だって、私達がいるファミレスは会社から遠い自宅近くなんだもん。
この界隈に住んでいる社員はいない。
そのへんはちゃんと調べてあるから出くわす事は無い。
『ちゃんと社員の住んでるとこ把握してんだ? そういや薫って、会社でもタバコ吸ってんだっけ?』
テーブルに乗せてあった私のタバコを指でトントンと叩きながらユキが言う。
『まっさかぁ! 純真無垢な薫ちゃんで通してるもん吸うわけないでしょ』
その言葉に、よくやるわとユキが返してきた。
『だってね、男を捕まえるなら、男の好きな女を演じなきゃ捕まるものも捕まらないでしょ?』
『クスッ』
(誰だ? 今笑ったの)
目の前のユキはオレンジジュースを飲んでいて、私の視線に気付き首を傾げた。
ふと隣のテーブルで食事をしていた男が視界に入った。
(コイツか?)
私に見られている事に気付いたその男が、紙ナプキンで口を拭き伝票を手に立ち上がった。
そして、私を横目で見ながら歩き出す。
『ククッ! 変な女』
なっ! 何?
さっき笑ったのもあの男?
『む、ムカつくぅ』
目の前のユキは相変わらず首を傾げていた。
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