第一話 皆様御仕ら世します

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もちろん、仲間にできれば、それに越した事はないが あの男、口では金に汚いように言うが欲では動かん 人の恨みをはらす事を天職とこころえる愚か者だ だから我々とは席を同じくしない。」 「じゃあ、やっちまっていいんですね」 「だが、それは待て」 「なぜです 御前の気持がわかりやせん」 「お主中村主水と言う男わかっておるか?」 「どうゆう意味でしょう?」 「ただの腕の立つ役人としか考えておらんようだな」 「いくら腕がたとうが」 「しょせん一人か 一人でも鬼神にまもられてるぞ」 「御前」 「わしの指示を待て」 「わかりやした」 番屋 二つ牢に、それぞれおくらとおもんが収容されている。 女郎屋の牛スケ(遊女の世話をやく男)が入ってくる。 「すまねえな、迷惑かけて」 番人に挨拶する牛スケ。 牛スケ、まずおもんのところに行く。 「まったくおめえは、人騒がせな女だよ」 牛スケ今度はおくらの牢の前に行く。 「なあ、あんた、おもんは、うちに前がりがある女だ。 勝手な事は、やめてもらおう もっとも、あんたが、うちに来るってなら、女郎同士のけんかなんか、かまった事じゃねえがな」おくら、そっぽを向く 「けっ可愛げのないアマだ よっぽど、おんもでやるのがお好きなようだ」 番人からカギを預かりおもんを牢から出す牛スケ。 おもん、牢から出るとおくらをからかう 「へん、籠の鳥だね」 「籠の鳥は、てめえだろ」 「なんだと」 「やるかい」 「出てきな」 「お前こそ、入ってきな」 牛スケが、おもんをなだめる。 「また、おめえら、いい加減にせえや」 おもんの手を引っ張り外へ連れだそえとする牛スケ。 「わかったよ、いくよ ところで、この女どうなんの?」 「他人様の事は、 ちょっとお灸すえにぁあならんから自分の事を心配しろ」 番人が口を挟んだ 「夜鷹は町役が請け人になってもらうしかねえがなかなかな あの中村さんが何とかすると言ってたが大獄以降お上もケンカ騒ぎに厳しくてな、請け人がないとちょっとな」 「中村って、あたいらのけんかの邪魔をした顔の長い小うるさい役人 あいつ鉄ちゃんとつるんでたよね」 「中村さんは口は悪いが面倒見のいい人だ ただあの人南から深川に移ったと聞いたからな」 「請け人が決まらねえと、どうなるんだ」
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