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すらっとした身体つきにドテラという格好は変に似合ってるなと思う。昔から、双子だと言うと俺が弟と勝手に勘違されるケースの方が圧倒的に多く、俺が童顔と言うより、全体的にヒカルの外見は大人びていた。
ぱたんと閉めたドアに背中を預けると、なんでそうよそよそしいのか「よ」と言ってヒカルは一度はにかんだ。
「今、眠い?」
「ああ眠い」
「ああ良かった。じゃあ、ちょっと行きたいとこあるから付き合ってよ」
「会話を強引に噛み合わせようとするな」
行きたいとこって、こんな夜にか?
円形闘技場じゃねえだろうな。
★
夏の夜。
一週間ぶりに外へ出たヒカルの反応は、まるで初雪にはしゃぐ小学生のようだった。
「うひぃいいいいい、さっぶぅ」
「熱帯夜なのに」
二の腕をガシガシと擦りながら笑顔でテンションを上げている妹に、対抗して俺は寝巻きの代わりにしているタンクトップの襟をパタパタと扇ぐ。
すっかり人間離れの寒がりに変わってしまったヒカル。
わざわざ、先っぽが焦げたマフラーを首に巻いていた。
「新しいの、買ってやるか?」
言うと、
「いらん」とマフラーをずり下げて、明るい歯を見せる。「これはこれで慣れてきたし」
それからヒカルが行きたいと言った場所に向けて歩き出すと、外の寒さに忍ぶあいつは不躾に俺の《右腕》に抱きついて、宇宙人みたいなことを言う。
「うー、外だと思うと余計に寒い。最近の地球は過ごしにくいね」
それもヒカルらしい行動と台詞だと思うが、残念ながら俺はキレた。
痛かったからだ。
「今オレの右肩はお前の優しさを必要としてンだろうガぁッ」
「はあ?」とヒカル。「……キレるとヤンキー中坊に戻んじゃねえよっ。アアハン!?」
「それを人様は逆ギレって言うンだろうガッ」
ほんのり非行経歴を持つ俺がからくも勝利をあげて、ヒカルは渋々と左腕にポジションを移した。
すると、ころころと笑い、こう呟いてる。
「やっぱアキちゃんつよぉい」
先週俺の心身をズタボロに追い込んだ女の言うことだろうか?
やがて、到着する。
あの新興団地だった。インプレッサが大爆発したところからもほど近い。
最後の事件現場よりも、寝静まった住宅地にヒカルが興味を持っていたのには理由がある。
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