ヘンゼルとグレーテル

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“ボクはどこでリンゴを食べたんだ?それに、あの二人は誰?” 記憶に疑問を持っていると、グレーテルがまたボクの服の袖を引っ張った。 グレーテルは話しかけたいとき、いつも相手の袖を引っ張るのだ。 「どうしたの?グレーテル」 「あのね、ちょっと、トイレ……」 「あぁ、行ってきなよ」 「暗くて怖いから……」 ついてきて、と言われなくても語尾が伝わり、ボクは一度くすっと笑って手を差し出した。 この家のトイレは外にあるため、グレーテルが怖がるのは当然だ。 「笑わないでよー」 「はいはい。ごめんね」 グレーテルが口を尖らせるのを面白がりながら、ボクは彼女の手を引いた。 そして、廊下を歩く際、リビングから明かりが漏れていることに気付いた。 まだ両親がそこにいるのだろうか、話し声も聞こえる。 「それは……ダメだ」 最初に聞こえたのは父の躊躇うような声だった。 「でも、あなた。このままじゃあ死んでしまう。捨ててしまいましょうよ」 「だが、それは……」 「あなただって、心のうちでは分かっているはずよ。いずれは下さなければならない決断なのだから……。四人で死ぬか、あの子達を捨てるか……。私は、共倒れなんて御免よ」 嘘だと思いたかった。 きっと悪い夢だと……。 だからボクは、足早にグレーテルを連れ出した。
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