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鳥の鳴き声で目を覚ました、と言えば、多少は優雅に聞こえるだろう。
でも、実際は家の周りでは鳥の鳴き声以外の音がないだけで、一切優雅ではない。
森の奥にある、小さなきこりの家。
それがボクの家だ。
そのはずだ。
けれど、素直にそう思えない。
ずっとここに住んでいたはずなのに、妙な感覚に襲われた。
思い出の詰まった家なのに、その思い出たちはとても薄っぺらな気がした。
「お兄ちゃん!朝よー!」
幼い声を元気よく響かせながら、妹のグレーテルが部屋の扉を開いた。
家事の手伝いをよくする彼女の手には、洗濯物の入ったかごが抱きしめられていた。
それらはもう洗われた後で、もう干すだけだということが、寝ぼけた頭でも理解できた。
「早く起きないと、またお父さんに置いていかれるよ?」
「んー……。ん?……あー!」
そうだ。
グレーテルが母の手伝いをしているように、ボクだって父の手伝いをしなければならないのだ。
毎日森の中で木を刈ったり、動物を捕まえたりと、父の仕事はほとんど肉体労働で、生活面にも直接関わってくる。
ただでさえ、最近は仕事がなくなってきているのに、このままでは食事すらできなくなる。
ボクは無理矢理頭を起こして、いつもの仕事着に着替えた。
そして、ナイフを腰に差して、父のいるであろう裏庭に向かった。
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