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グレーテルが用を足している間、ボクは何も言わなかった。
何も言えなかった。
彼女は両親の話を聞いたのだろうか。
聴いた上で、理解したのだろうか。
どちらにせよ、あの話を信じたくなかった。
「おわったよ!」
「あ、うん」
ボクはグレーテルへ手を差し出した。
彼女も、ボクより一回り小さい掌を差し出して手を繋いだ。
その手は、かすかに震えていた。
「……お兄ちゃん……」
「何?」
「……捨てられちゃうのかな、私たち……」
“あぁ、聞こえてたんだ……”
僕の聞き間違いではなかったらしい。
グレーテルの握力が少しだけ強くなった。
そして、時折すすり泣くような声が聞こえた。
「……大丈夫だよ」
「……」
「大丈夫」
力ない言葉をボクは繰り返すしかなかった。
グレーテルのためにも、ボク自身のためにも……。
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