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佐和子は男の前で土下座したまま、何度も何度も頭を下げた。
その声は徐々に、か細く小さな声へと変わっていく‥。
「助けて‥」
お願い‥」
卓は床の上で泣き崩れる佐和子の背中をさすり、しゃがみこんだ。
そして微笑み混じりに佐和子の肩を抱いた。
「もういいよ。
母さん。帰ろう」
枯れることのない佐和子の涙。卓も同じ気持ちだった。けれど、自分は今ここで泣いている訳にはいかない。
卓は、下唇を噛み締め、男に向かってペコリと一礼した。
「ご迷惑をおかけしました」
震える声。
『私達に望みはない』
これで、本当に全てが終わってしまった。
悠子、恨みを晴らせなくて本当にごめんな。
――悔しい。
――悔しい……!
二人の心に、どうしようもない無念が込み上げてくる。
すすり泣く佐和子を抱き寄せて、卓はそのまま部屋を出ようと振り返る。
すると、男が突然口を開いた。
「待て」
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