裁き

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         一 「チッ 早く終わんねーかな」 薄い灰色の、つなぎのような作業着を着た弥谷 恭介は、斜め後ろ辺りで見回りをしている看守に聞こえぬよう、ボソッと呟いた。 何十人、何百人と人がいる中ミシンの音だけが延々と聞こえる。 白いアスファルトの大広間に長机と椅子が無数に並び、その中で皆、もくもくと作業をしている。 ここで布を裁縫してできた製品は一部の企業に運ばれ、一般人のもとに届く。 囚人と民間人の唯一の繋がりだ。 一日働いて報酬は五、六円程度…… 。 階級が上がれば三十円程はもらえるが。
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