日常1 《黒猫亭の看板娘》

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彼女がその場所を去ろうとした時、凄い勢いで化粧ポーチが彼女に向かって飛んで来た。 彼女は驚きながらも、それをギリギリに避ける。 化粧ポーチを投げたのは女の子の母親。 母親は【きゃぁぁぁ!野良猫にうちの娘が襲われてる!誰かーっ!】と甲高い声を上げ叫ぶ。 その姿に彼女は恐怖した。 顔を真っ赤にした人間が自分に向かって手当たり次第に物を投げてくるのだ。 彼女は逃げる。 恐怖のあまりに狂暴なボス猫が支配するエリアにいる事を忘れたまま。 ひたすらに、ただひたすらに、母親の悲鳴が聞こえなくなる場所まで。 彼女が自分の現状を理解したのは、それからしばらく後。 すでに取り返しのつかない深みにはまった時。 辺りを数匹の同族に囲まれ、その全ての牙が自分に向かって研がれていると理解した時。 その時、彼女は呆れたように《みぁー。》と鳴いた。 それは、きっと自分自身の軽率な行動に呆れたからだろう。 今まで最大限の注意を払い、生きてきた。 それが気まぐれで人間の子供を助けたばかりに、子供の母親には恨まれ、同族達には殺されそうになっているのだ。 彼女は自分の爪と牙を確認するようにペロリと舐めた。 そして辺りを威嚇するかのように睨みつける。 その美しい瞳には生きる事への意志が見てとれる。 彼女は思い切り壁に向かって飛び上がると、一番近くにいた同族に飛びかかった。
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