日常1 《黒猫亭の看板娘》

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「あー・・・ゴローさんか。」 「はい。今は各々が彼を探す努力をしています。私も元々は噂を頼りに南米を捜索していたんですよ。」 「・・・え?じゃあ・・・」 「はい。確かに今は豆を探す為に南米などに行きますが、元々はゴロー君を探す旅だったのです。豆はついでです。」 「ついでって。」 「しかし、彼は見つからない。その時に思ったのです。彼はコーヒー好き。そして我々が下界に移り住んでいる事を知らない。ならば教えれば良い。彼の好きなコーヒーを使ってね。そうすれば彼は必ず我々の元へ帰ってくるでしょう。」 「気の長い話ですなぁ。」 「時間は沢山ありますから。それに私のコーヒーを彼に飲ませて《うまっ!うまいっスよ!クロさん!》と唸らせてやりたいのです。私の夢です。」 「へー。何か良いなぁ・・・。」 「何がですか?」 「・・・こんなに大事に思われているゴローさんが・・・羨ましいなぁってね。」 「羨ましい?」 「あー。うん。人に大切に思われるって・・・凄い事だから。」 「私は志乃さんも大切ですよ?」 「・・・はっ!?」 「安心なさい。もし志乃さんが消えたら私が探しだして差し上げましょう。何処にいても必ず見つけだします。」 「ちょっ!?えっ!?はっ!?なに!?なに!?いきなり・・・えっ!?それって、どういう意味で・・・ええっ!?」 ・・・何故、志乃さんは顔を紅潮させながら慌てふためいているのでしょう? ・・・ふふっ。 ちょっと面白いですね。 「志乃さんがいないと店番がいなくなってしまいます。」 「デスヨネー。」 今度は全てを悟った僧侶のような達観した表情。 その中に哀愁を感じます。 志乃さんは表情豊かで羨ましいですね。 「・・・クロさん、笑ってる?」 「えぇ。おそらく。」 「・・・その笑顔・・・こわっ!」
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