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ーーー・・・。
《・・・ん。》
【あっ!ほらっ!お爺さん!起きましたよ!】
【これ。小さなお客さんが怖がるじゃろう。静かにせんか。】
人間の声。
その声が彼女の意識をゆるゆると覚醒させる。
勿論、人間の言葉は彼女には理解出来ない。
彼女の身体には白い包帯が巻かれ、しっかりと止血されている。
そして2人の会話を聞けば彼女にとって2人は敵ではないのだが、言葉の意味を理解出来ない彼女にとって人間は信用ならない敵であった。
《・・・にん・・・げん?》
彼女は痛む身体を起こそうと必死に足に力を入れる。
しかし、弱りきった彼女は歩くどころか普通に立つ事も出来ない。
それでも彼女は足に力を込める。
彼女は理解している。
この世で本当に信用出来るのは自分のみ。
他の生物。
人間のみならず同族ですら、気を許してはならないと。
【あらあら、駄目よ。無理しちゃ。お医者様が傷は深くないけど安静にって。】
老婆がゆっくりと彼女に向かって手を伸ばす。
その手に彼女は恐怖した。
ゆっくりと、自分の顔より大きい手が自分に向かってくるのだ。
何より自分の身体は少し力を込めるだけで痛みが走り、歩く事も出来ないのだ。
しかし、彼女は諦めない。
手を伸ばす老婆に向かって、《私に触るなぁぁぁぁーっ!》と精一杯の威嚇をする。
叫び、爪を立て、牙を剥き出しにした。
威嚇なんて自分より遥かに大きい相手には効果は薄い。
むしろ相手を煽り、殺されるかも知れない。
それでも彼女は必死に叫んだ。
その叫びが相手に届いたのだろうか?
老婆は悲しそうな目で彼女を眺めると【あらあら。ごめんなさい。】と手を引っ込めた。
【私、猫ちゃんに嫌われちゃったのかしら?】
【婆さんの顔が怖いんじゃろ。】
【んもう。お爺さんたら!はぁ・・・私、お茶でも入れて来ますね。】
【頼む!濃いーっ、やつを頼む。】
【ふふっ。はい。はい。】
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