日常1 《黒猫亭の看板娘》

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特別扱いは好きではありませんが、私は一度選んだ家族を手放しません。 ですからトライアル期間は正直いらないと感じていました。 ですから、この特別扱いを丁重にお受け致しましょう。 そもそも、これから家族となる者にお試し期間など失礼にも程がありますし。 「ありがとうございます。」 「あ、でも内緒ですよー?」 「勿論です。」 「クロさんが約束してくれるなら安心です。」 女性職員さん・・・確か、名前は尾野さん。 ちょっと自信がないですが・・・後でこっそり名札を確認しましょう。 尾野さん(仮名)に連れられケージに囚われた猫達を一匹、一匹眺める。 人懐こく私を見た瞬間に寄ってくる子、臆病でケージの隅に震えて丸まる子、敵対心を露にし私に威嚇をしてくる子と色んな子達がいます。 正直、みんな家族として迎えたい。 みんなを引き取り、自由にしてあげたい。 もっと私に力があれば・・・。 ・・・私は情けない。 「・・・ロ・・・さん?」 「・・・。」 「・・・ロさん?クロさん!?」 ・・・!? 「あ、すいません。少し考え事を。」 「・・・無理ですよ?」 「はい?」 「全員を助けるなんて不可能です。」 「・・・はい。」 「でも、少なくとも一匹は確実に助かります。」 「・・・。」 「クロさん。クロさんは優しすぎます。そして欲張りです。全員じゃないけど・・・すでにクロさんに引き取られた5匹、それに今回の1匹。全員で6匹もの命を救ったんですよ?胸を張るならまだしも、そんなに悲しい顔してちゃ新しい家族も嫌がりますよ?」 「・・・申し訳ありません。」 「はい!では次の・・・【ガタン!】」 ・・・? 物音?その物音は動物達のいる部屋ではなく、今は倉庫として使われている部屋から聞こえました。まぁ倉庫と言えば聞こえは良いですが、実際は不必要な物をしまうガラクタ部屋です。 「・・・珍しいですね?あの部屋に人がいるなんて。」 「あ、いや~。中にいるのは人じゃないんですよ。」
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