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【あの桜の下にはの。儂の娘が眠っておるんじゃ。ほれ、この子じゃ。】
老人は胸元から大事そうに1枚の写真を取り出すと彼女に見せた。
そこには10~12歳程度の可愛らしい女の子が写っていた。
日の光が眩しそうに笑っている。
《・・・誰だ?この家では見たことがないな。》
【ずいぶん前に病での。あの子は・・・亜美は桜が大好きでなぁ。死ぬ時に桜の下に灰を撒いてくれと頼まれたんじゃ。】
《こいつは何処にいるんだ?》
【儂は・・・何もしてやれなかったのぅ。】
《・・・死んだのか?》
【それから桜を眺めるのが日課になった。あの桜が成長する度に娘が大きくなるような気がしてのぅ。
】
《あの・・・桜の木にいるのか?》
【儂は・・・愚かな爺じゃな。】
彼女は老人の言葉の意味は分からない。
老人も、彼女が話を聞いているとは思っていない。
しかし、老人がポツリ、ポツリと話すのに対し「みぁー。」と鳴く彼女はまるで会話をしているように見える事だろう。
彼女はゆっくりと身体を起こすと、あぐらをかいている老人の膝元へ登り、身体を休める。
彼女には老人が寒そうに見えた。
ゆっくりと、桜を眺めながら震える老人は弱そうで悲しそうに見えた。
《・・・私は・・・暖かいぞ?》
【暖かいのぅ。ありがとうの。】
《・・・そうだろう?仕方ないから暖めてやる。》
【猫・・・いや、流石にもう猫と呼ぶのは・・・そうじゃ、名前を考えてやろう。お主は・・・ミアじゃ。鳴き声が「みぁー。」と鳴くし・・・儂の娘の名前を逆に読むとミアじゃ。良い名前じゃろう?なぁ・・・ミア?】
《・・・ミア?そうか・・・私はミアか・・・気に入ったぞ。・・・礼に今からは私が暖めてやる。だからもう震えるな。・・・凍えてしまうぞ?》
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